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なぜワカコは冷たいのか。彼氏のヒロキに対して

2018年10月12日

ぷしゅーぅ。

どーしても気になることがある。ワカコがときおり見せる、恋人「ヒロキ」に対する冷笑的な態度である。

おれとワカコ酒

第一印象は良くなかった。女子向けグルメ漫画が40万部突破!という書店POPを遠巻きから眺めては「イケ好かない漫画が女子供のあいだで流行っているだと……気に入らねぇ!」と思っていた。(2018年2月現在、売上部数は累計170万部超え)

だが一読して、食わず嫌いであることを理解した。
ワカコ酒おもしろいです。

おれがこの作品をイラつかず読むことができたのは、まさにワカコという女の自立性によるものだ。美人が「通」ぶって酒と飯にかんするウンチクを垂れる漫画なんてイケすかないに決まっているのだが、なぜか『ワカコ酒』は許せてしまう。この「許せてしまう」とかいうのは何様だよ!というのは置いといて、とにかく『ワカコ酒』は読んでいて心地よい気分になれる作品だ。

ワカコは自立している女性だ。仕事でつらいことがあっても独りで居酒屋に行ってイカの塩辛と日本酒でチビチビやりなどして気持ちを立て直したり、恋人からの身勝手な食事の誘いをキッパリと本音で断ることができる。

職場においては感情に乏しく引っ込み思案なところもあるようだが、じぶんの恋人に対する態度だけは峻烈をきわめている。

酒と恋愛にかんしてはオトコマエな女。村崎ワカコ26歳。

ワカコとヒロキの奇妙な関係

率直に言って、ワカコの心は冷えきっている。ワカコは、恋人ヒロキのことを一丁前の男として認めていない。3巻まで読んでみて、おれは確信した。

▼第1巻

10ページ『1夜 鮭の塩焼き』

第1話から早速、恋人との齟齬(かみあわない)エピソードを回想している。ヒロキは焼き鮭で米飯を食うが、ワカコはそれを肴にして日本酒を飲む。そのとき眉間にしわを寄せてイラだちを隠そうともしない。いつもは、ワカコは滅多に険しい表情を浮かべないのに……。

ご存じのとおり、普段のワカコは、酒さえ飲めればゴキゲンなお姉さんである。
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それが、ヒロキのことを思いだすと……

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こんなにも険しい表情を浮かべてしまう!
(画像はいずれも『ワカコ酒 第1巻』から引用)

ワカコの不機嫌は、ヒロキの「未成熟」や「野暮」に起因するものだ。

のちに判明するのだが、ヒロキは下戸ではない。ただ「酒の楽しみ方」を知らないのである。それがワカコには気に入らない。パートナーとして大きな不満を感じているようなのだ。(これは女→男へ向けたアルハラもしくはDVのようにも感じるが、それはまた別のはなし)

22ページ『4夜 焼き餃子』

恋人のヒロキからの唐突な誘い。まさにこれからニンニクたっぷりのギョーザを楽しもうとしているところを邪魔されて不機嫌になるワカコ。

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眉間のシワwww 『ワカコ酒 第1巻』から引用

このあと「ダメ」というメールを返信したところから察するに、べつにワカコはヒロキに対して「猫をかぶって」つきあっているわけではないらしい。イヤなものをイヤと言える関係なのであり、ふたりのあいだに温度差はあっても閉塞感はないのだろうと推測できる。

35ページ『7夜 ざる豆腐』

歴代『ワカコ酒』エピソードのなかで、もっともテクニカルな回である。

入店したときに、コイバナを熱く語り合っているふたり連れの女性客がいる。ワカコがざる豆腐を食べているコマに、たびたびコイバナの内容が乱入してくる

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「まーねー 合う人合わない人いるよねー」
「自分にはこういう人! ってわかってるつもりだけど」
「実際、つきあってみたらなんか違うとかねー」
「前カレとは全然ケンカしなかったの」
「ウソ 一回も?」
「ケンカしない=気があう だと思ってたけど」
「あ━━多分違うよね」
「そうそう」
「ぶつかって初めてわかることってあるじゃん」
「どれだけ一緒に盛り上がれるかってのも大事だけど」
「落ち着く相手!」
「が いいよね」
「そー思えるのも寄り道したからかな」

(『ワカコ酒 第1巻』から引用)

隠喩表現?であり、恋愛トークであると同時に、今回の題材である「ざる豆腐」とトッピング(塩、柚子こしょう、酒盗、ねぎ、かつおぶし)の相性をも語っている。

さらに、あたかもワカコの恋愛観を代弁させる(?)かのようにも読解できなくはない。まんが表現としてかなりテクニカルであり初期の傑作だ。

130ページ『24夜 いかと里芋の煮物』

彼氏のことをふと思い出す。忘れていた。思い出したけど、ヒロキが酒の飲み方を知らない「おこちゃま(ワカコ目線)」であることによって、人生における価値観(大事にしたいこと)を共有できない現実を、ワカコがあらためて認識する。

151ページ『SP.2 祝い酒』

結婚式の回。ワカコが、ヒロキとの結婚をまったく考えていないことが改めてあきらかになる。「酒」にまつわる価値観の共有がむずかしいので、今のところ結婚はありえないのか。

▼第2巻

139ページ『52夜 焼き牡蠣 』

同僚から「張り切ってるね。きょうはデート?」 と訊かれて「そんなものよりいいものさ」と、ワカコはこたえる。

ヒロキ(´・ω・)カワイソス

144ページ 同上

ヒロキは生牡蠣(なまがき)が苦手。ワカコは生牡蠣が大好き。このふたり、致命的なほど食い物の好みが異なる。むかしのカップルや夫婦ならともかく、現代のカップルでこのような状況は、やはり致命的だ。

▼第3巻

97ページ『69夜 根菜のピクルス』

ワカコはヒロキと会う約束をしていたが、ヒロキの仕事の都合でポシャった。恋人の顔を見る機会を失ったというのに、うれしそう。あたかも「アイツのお守りをしながら酒を飲まなくて済む」みたいな感じである。

100ページ 同上

仕事が忙しくてデートをキャンセルしたヒロキに対して、ワカコは「お仕事お疲れさまっていう100点満点のメール」を送信することを思いつくけれど後まわしにする。ワカコの目の前には旨い料理と酒があるからだ。ヒロキよりも、そっち優先。

ふたりはお別れするの?

正直に言って、ワカコとヒロキのような恋人たちの機微が、おれにはわからない。ふたりはこのまま別れてしまう運命にあるのだろうか? それとも、アレがデキちゃうまでダラダラと付き合い続けるのだろうか?

1巻から3巻までの文脈を考慮するならば、ワカコは「まあ、ヒロキでいいや」という感じでテキトーに決めてしまいそうである。自立している女性にとって、結婚は人生における数ある節目のひとつにすぎない。『7夜 ざる豆腐』における隠喩表現の数々が、ワカコの恋愛観を理解するための助けになるだろう。

おれの勝手な願望だが、ワカコにはずっとひとり酒を貫き通してもらいたい。ひどいリクエストだが。

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