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なぜ、バラライカは岡島緑郎(ロック)を許したのか?

2017年12月10日

自分で自分を投げるということ

『BLACK LAGOON』のアニメを観直した。

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おれが好きなシーンのひとつに「バラライカと岡島緑郎(ロック)の修羅場」がある。原作コミック4巻と5巻に収録されている「Fujiyama Gangsta Paradise」いわゆる日本編の1シーンだ。

経緯は省く。緑郎を押し倒してその鼻先へ銃口を突きつけるほどキレてしまったバラライカが、なぜ「でしゃばり屋の通訳さん」に許しを与えたのか。しかも、そのあと緑郎が望んだ「雪緒の命だけは助ける」という意向を汲みとった決定をくだしている。

命を乞うときのコツは、ふたつ。
ひとつは、命を握る者を楽しませる事。
もうひとつは、その人間を納得させる理由を述べる事だ。

(『BLACK LAGOON』(アニメ版)から引用)

冷酷無比なロシア・マフィアの頭目であり、世界でおっかない女のうちの上位にランクインするバラライカを納得させた「理由」とは何だったのか?

おれは今まで、『BLACK LAGOON』の原作コミックやアニメを何周もしてきたつもりだったが、例のコラム原稿を書くため、他人にうまく説明しなければならない事態にせまられて、ようやく「あのシーン」の意味を理解することができた。

人ってね、サイコロと同じだって、あるフランス人が言ってるんです。
自分でね、自分を投げるんです。自分で決めた方向に。

それができるから、人は自由なんだ…って。

(『BLACK LAGOON』(アニメ版)から引用)

雪緒に教わったとおりにした。つまり、一か八かを試した。緑郎はバラライカに向かって自分を投げたのだ。まるでサイコロのように。

思い出してほしい。上司の顔色うかがいばかりしていた商社マンにすぎなかったくせに、岡島緑郎という男は、魚雷を積んだボートで軍用ヘリに特攻するというイカれた発想によって窮地を脱している。(原作1巻)

義理などではなく、正義という言葉も方便だ。
理由なんてたった「ひとつ」だ。
そいつは……俺の趣味だ。

ドブのなかでくたばるのを喜ぶ趣味もあれば、
こういうのもある。
根本のところでは、あんたと同じですよ。

(『BLACK LAGOON』(アニメ版)から引用)

緑郎は、今度はバラライカに意見するという方法によって、軍用ヘリに特攻したときと同じ賭けに興じようとしたにすぎない。「おれの趣味だ」という返答を受けて、バラライカは思わず哄笑する。

バカな勝負に命を賭けるのは、今後は避けたほうがいいわ。

(『BLACK LAGOON』(アニメ版)から引用)

バラライカは、ロックの言い分に納得してしまった。すくなくとも緑郎は負けなかった。出目は3か4といったところか。

バラライカの趣味

ところで、緑郎が述べた「あんたと同じですよ」は、バラライカにとって何を示唆しているのか。

アフガンなどの紛争地域で特殊部隊を率いていたバラライカは、作戦遂行中に難民の子どもを助けたという理由によって命令違反を問われて軍籍を剥奪されたあと、守るべき祖国(旧ソビエト連邦)も消滅した。生活苦にあえぐ部下たちに何もしてやれず、バラライカ自身も生きる目的を失っていた。だが、元部下の借金苦による死をきっかけに、もはや軍人でなければ生きられないことを自覚したバラライカは、自分で自分を投げてみること決めた。その着地先がロシア・マフィアでありホテル・モスクワであった。

バラライカの趣味とは「軍人」として「死地へ身を投じる」ことだ。レヴィに言わせれば「イカれた戦争マニア」にすぎないが、バラライカにとってそれは彼女の本質そのものではないか。

緑郎が「悪党になった」のは、いつなのか?

ロックの「危険な趣味」は、はたして本編のいつごろ、かれの胸の奥で芽生えたのだろうか。

考えてもみれば、追いつめられた緑郎が、魚雷艇(ラグーン号)で軍用ヘリに向かって特攻することを提案した第1巻の時点で、原作者にとって「危険な趣味」はキャラクター設定に折り込み済みだったのかもしれない。

おれはよく理解せずに『BLACK LAGOON』という作品のうわべの派手さと華やかさだけしか目に入ってなかった。

「El Baile de la muerte」(原作7巻~9巻。ロベルタふたたび編)において、三合会の張をすら不安にさせた、あの「ロアナプラの存続を脅かしかねない利害関係者をごった煮にしたロベルタ復讐譚」にかこつけた緑郎の大構想。あのエピソード群は、かれが悪党として成長した証のような事件だと思っていたが、初期エピソードである魚雷艇特攻および日本編におけるバラライカとの修羅場エピソードを鑑みれば、やはり緑郎の「危険な趣味」はロアナプラの一員になる以前からの天稟だったと考えられる。

緑郎は無謀ではない。所属していた旭日重工(あさひじゅうこう)は「日本一の商社」という設定だ。兄は官僚になったというから、優秀な遺伝子か教育方針にめぐまれた家系に生まれついたはずだ。英語が堪能であり、サラリーマン時代に読んだ交際資料に書いてあった「南米の没落貴族が飼っている犬の品種や名前」まで覚えている。さらに言えば、ロベルタがつぶやいた「ウナベディシオンポルゥロスヴィヴォス……」というポルトガル語を同時翻訳してみせくらいに、とってもとっても賢い男だ。

ロックこと岡島緑郎は、すぐれた大局観の持ち主であり、分の悪いギャンブルを勝ち抜くための必要最低条件を知っている。緑郎のような「危険な趣味」の持ち主にとって、ロアナプラは最高の鉄火場(紛争地域と賭博場のダブルミーニング)なのだ。

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