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まずい食事と下川田。廣川ヒロト「オモシロ自衛官観察日記」感想


新装版オモシロ自衛官観察日記
廣川ヒロト (著)
元自衛官たちの交遊録。

自衛隊にまぎれこんだ文学青年

この本は、著者が10代後半〜20代前半の4年間を自衛隊員として過ごした記録だ。特徴的なのは、若いわりに、やけに「物の見方」がクールなところ。

著者はヒマさえあれば『世界の歴史〈2〉古代オリエント (河出文庫)』なんて本を読んでいる文学青年なのである。自衛隊の同僚たちが「車」や「パチンコ」で散財しているのを尻目に、無駄遣いもせずに読書に励んでいた。

本人いわく、

読みたくて読んでいたわけではなく、100パーセント暇つぶしでした。やることがないんですよ。寮生活は。

(『オモシロ自衛官観察日記』から引用)

とはいうものの、自衛隊に在籍していた4年間で読んだ本は500冊以上というのだから知的欲求は人並み以上である。一般社会ならば珍しくもないが、自衛隊内においては異色の存在といえる。

意外と「ゆるふわ」な組織

自衛隊、ようするに軍隊である。軍隊といえば規律が厳しいイメージだ。本書には、我々の思い込みをくつがえす記述がたくさん登場する。

たとえば演習任務中の過ごし方である。「いつ何が起こってもいいように気持ちを張り詰めて待機している」……これが一般的なイメージだと思う。

著者は文庫本を読んでいたのである。2週間の演習任務中、ずっと。

けっしてサボっていたわけではない。隊員としての仕事もしていたが、実働は「30分/日」だったらしい。それ以外の時間はずっと読書に励んでいたという。これには正当な理由がある。書くとネタバレになるので、興味のある方はぜひ本書を手にとって確かめてもらいたい。

自衛隊の夜食事情

著者は、いつも「腹がペコちゃん」だったらしい。でも、大食いというわけでもなかった。理由がある。

駐屯地内の食堂にはルールがあった。所属する中隊メンバーは、ひとつの場所に固まって食べなければいけない。そして、食べ終えて席を立つのも同時でなければいけない。暗黙のルールである。駐屯地は数百名の大所帯である。早く食べ終えないと後ろが詰まってしまう。

著者は、食べるのが遅かった。しかし自衛隊内では協調性が優先される。他の隊員たちにあわせて、食べ終わってないのに途中で席を立つしかなかった。当然、もの足りない。22時くらいに腹がペコちゃんになる。

愛しのカップラーメン

そんな著者にとって、カップラーメンの存在はありがたかった。小腹がすいたとき、一番手軽に空腹を幸福に満たせるからだ。お湯をわかせば、すぐ食べられる。

隊内では「カップ焼きそば」も人気があった。本書では、当時流行っていた食べ方が紹介されている。湯をそそいで、ほぐれた麺にマヨネーズをまぶして、最後にソースをかける。斬新な順番である。うまそうだ。明日さっそくカップ焼きそばを買ってくる。試してみたくなった。

すき焼き「らしきもの」を食わされる

日本では「海軍カレー的なもの」が定期的にブームになる。これはあながち幻想ではない。マズイものぞろいの自衛隊のメシのなかで、カレーライスだけは食べられる味だったという。著者も太鼓判を押している。

でも、カレーライス以外の献立は不味い。たとえば「すき焼き」は最悪だったらしい。やたらと水っぽいのである。

料理がまずい原因は、調理担当者の腕前のせいではない。自衛隊員に供される食事は、専門の栄養士が組み立てたレシピをもとに調理されるからだ。レシピどおりの分量で作らなければいけないので、たとえば「すき焼き」の場合、白菜から出る水分が考慮されていない。その結果、出来上がるのは薄味の「すき焼きらしきもの」というわけだ。

若い隊員たちの避難所

マズイものをいくら腹に詰め込んでも満腹感は得られない。だから若い隊員たちは、腹がへったら食堂には行かずに駐屯地内にある喫茶店へと駆け込む。栄養士の魔の手が及んでいないので、どの料理も美味しいのである。

ほかにも、駐屯地の門外にはラーメン屋台が来ていたらしい。隊員たちを息抜きさせる重要な役割を果たしていたようだ。

ある同僚との因縁

下川田という男が登場する。著者とは同期入隊の仲だ。こいつが超弩級のクズなのである。

暴力をふるったり悪事をはたらくタイプのクズではない。約束を守らないクズなのである。個人的には、下川田とのやりとりがいちばん楽しめた。読めばわかる。


新装版オモシロ自衛官観察日記