人に好かれるために書くべからず『小説家という職業』(森博嗣・著)感想

発行は2010年だが、時代を先取りしていたと断言できる内容。「すげー、森博嗣、すげー」と言いながら読んだ。以下、気になった点を列挙していく。

小説家という職業 (集英社新書)

まずは目次から。小見出しも転載する。気分は小飼弾である。おれは滅多にこんなことはしない。内容に感銘を受けたからである。

『小説家という職業』の目次

【1章 小説家になった経緯と戦略】
何故、小説を書き始めたのか
小説家にはなりやすい
家族に読んでもらう
頭の中の世界をアウトプット
募集要項に驚く
シリーズものの創作
出版社からの連絡
最初の本が出る
小説はメジャなものではない
出版界の認識のずれ
プロのもの書きの条件
意味が通じるものを書く

【2章 小説家になったあとの心構え】
続かない理由その1 最初の作品を超えられない
続かない理由その2 読者の慣れ
続かない理由その3 デビュー後のビジョンがない
ホームページを作る
ユーザーの感想を分析する
目指すのは「新しさ」
謎をちりばめる
読者の積極性に期待する
読者の意見への接し方
貶した書評の効能
ネットを通じた批判
予定を作る

【3章 出版界の問題と将来】
出版社は協同組合
出版社の周辺
小説とノンフィクション
小説の流通の未来
何故、締切にルーズなのか
当たり前のビジネスが成立しない
電子出版の可能性
本と宣伝
地道に創作する
秘訣も秘策もない
小説は自由なもの

【4章 創作というビジネスの展望】
気になる楽観主義
生産者は生き残る
できるだけでは仕事にならない
「ウリ」を作る
小説家に必要な姿勢
ネット書評の特性
小説にテーマは要らない
ファンとの距離感
ニーズは新たに作る
編集者の古い体質
一人の人間が創り出す凄さ
小説は滅びない

【5章 小説執筆のディテール】
芸術は奇跡である
文体は必要ない
システムの存在感
文章のシェイプアップ
視点が重要なポイント
自然を自分の目で見る
思い浮かぶものを文章に落とす
メモは作らない
会話のリアルさ
シーンに必要なもの
難しいのはラスト
原稿の手直し
執筆期間と非執筆期間
タイトルを決める
進むうちに道は開ける

【あとがき】

(『小説家という職業』から引用)

本書は、ひとことで言えば「作家・森博嗣の自伝+これから作家になりたい人へのアドバイス」が収録されている。

森博嗣はまぎれもなく天才なのだけど、本人はそれをよく自覚(?)しているので、よく咀嚼して汎用性の高いアドバイスが書かれている。長嶋茂雄のバッティング指導みたいではないので安心して手に取ればよい。

書き続けるために必要なこと

 僕は、編集者に気に入ってもらうために小説家になったのではない。僕のする仕事、すなわち作品を欲している人がいれば、その人と交渉をし、条件が合えば、自分のできることをする、というスタンス。芸術家ではない、職人である。

115ページ

(『小説家という職業』から引用)

ここまでは「よくある」意見。つづきが素晴らしい。

 繰り返すが、僕はビジネスで小説を書いた。ビジネスというのは、人気者になるためにするのではない。人気者になりたかったら、無料で本を配りなさい、といつも言っている。ビジネスなのだから、「相手からお金を取る」という行為に大して、もっと責任を持たなくてはならないだろう。

「人気者になりたい」というのは、「他人に好かれたい」ということであるから、そういう人が作家になると、作品をちょっと貶されただけでスランプになったりする。

 それ以前に、作品を少し書いただけで、すぐに誰かに読んでもらい、その反応が知りたくなるだろう。期待通りの批評をされないと、もうその先を書くことができなくなる。たぶん、そういう人が沢山いて、悩んでいるのではないか、と想像する。

 はっきりしている真実が一つある。どんなに酷い作品でも、誰かは褒めてくれる。どんなに優れた作品でも、誰かは貶す。人間のばらつきは、それくらい広い。だから、他者の評価をいちいち気にして、万人に認められるものを書こう、などと考えない方が良い。

どれだけの人数が、あなたの作品に金を払うのか、ということが問題である。作品にもし価値の高低をつけるとしたら、何部売れたのか、これ以外に一列に並べられる明確な指標はない。それだけのことである。まずは、そういったクールさを持たなければ、「プロのもの書き」にはなれない、と断言しよう

53-54ページ

(『小説家という職業』から引用)

電子書籍時代と出版業界

以下の記述は2010年時点なので、2013年現在は数値が異なるかもしれない。

 電子出版の割合はまだ少ないけれど、10年後には書物以上になっている可能性が高い。時期の早い遅いのずれはあっても、いずれ主流になることはまちがいない。

 現在の電子出版では、作家に支払われる印税として15%というのがよく聞かれる数字である。

(中略)

 僕も、今はこれで契約しているけれど、この数字は絶対に低すぎる。なにしろ、電子出版には印刷も輸送も陳列スペースも不要なのだ。在庫を抱えるリスクもない。最初はシステムなどに設備投資が必要とはいえ、それでも、著者印税は30%以上が妥当だろう。

 もしそうならなければ、作家は出版社を通さず、自分で直接コンテンツを配信するか、もっと良い条件で誰かに業務を依頼することになるにちがいない。売れる作家ほどそうするはずだ。

108-109ページ

(『小説家という職業』から引用)

続編ではもっとぶっちゃけている

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